小松の旧北前船主邸「瀬戸家」(小松市安宅町)で1月1日、先代の妻が花嫁衣装として持ち込んだ振り袖がお披露目された。
2018(平成30)年に北前船寄港地として日本遺産に認定された小松市安宅地区にある同家は、幕末から明治時代にかけ活躍した北前船主で複数の船を所有し巨大な富を築いたとされる。江戸時代後期の火事により農村部の豪邸を購入移築した建物は、200年たった今も子孫が生活する「生きた資料館」。現当主の妻、瀬戸照子さんは、全国的に見ても珍しい船主邸宅として予約があれば内部を公開している。
今回お披露目された振り袖は、1938(昭和13)年に白山市から嫁ぎ78歳で亡くなった先代の妻、俊幸(としこ)さんが婚礼衣装として着用したもの。黒と朱の2種類あり、絹地の繊細なちりめんに、鶴や扇、松竹梅のおめでたい柄を大胆に配し、金糸などで刺しゅうを施した豪華な仕上がりになっている。
俊幸さんのひ孫にあたる東京都在住のめろんさんが今年成人式を迎えるに当たり、12月に着物を探していたところ、祖母の照子さんが蔵で保管していた俊幸さんの振り袖の存在を思い出し提案したという。どちらも保存状態が良く、当時のまま残されていたが、成人式で華やかに装えるよう朱色の着物を選び、めろんさんの体型に合わせ袖丈を伸ばした。髪飾りも俊幸さんの結婚式で使われたもので、1月10日に渋谷区で開かれる成人式で着用するという。正月の帰省で試着しためろんさんは「柄の細かい部分にも刺しゅうがあり、丁寧に作られた着物で感激した。式で久しぶりに会った友達にかわいいと思ってもらえたらうれしい」と喜ぶ。
照子さんは「俊幸さんはとても穏やかで優しい人柄だった。83年間桐のたんすにしまわれたままだった大切な着物が、ひ孫の晴れ舞台の衣装になる。世代を超えて受け継がれ、俊幸さんも喜んでいると思う」と話す。